<< TOP  < BACK                                絵本旅行社・ありがとう・キネンビ・黒猫No.19-2


黒猫の秘密


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 又ある時は、

定年をむかえた後、御隠居さんとなった老人が、

夢家のおじさんに、




「私は、定年後有り余る時間で、

大好きな推理小説を読み漁って、

老後を過ごしたいと思っていた。

幸運にも、こちらのお店のおかげで、

古本を次から次と

週に十冊は読んでまいりました。



 そして読み漁って、読み漁って、

その結果、

過去に発行された推理小説は

たった二年で読み尽くしてしまい、

底をついてしまったのです。



 あとは、新しく本が出るのを待つしかないんですよ。

無尽蔵に有ると思っていたのに、

読む本が無いとなると毎日がつまらなくてね。

これからの長い人生

どうやって過ごしていけばいいんだろうね」





「それなら御自身が推理作家になるというのはどうですか?

 好きで、好きでたった二年で読み尽くしてしまったぐらいのお人なら、

まちがいなく書けますよ、請け負います。




 毎日、原稿用紙をひろげ、

まず 『推理作家になる』、『推理作家だ』と声を出して言う、

原稿用紙に思い浮んだ文章を

必ず毎日一行でも良いので書く、

辻褄が合わなくなれば、書き直せばよいのです。




 これだけです、

ただし毎日毎日続けないといけません。

毎日、毎日続ける事で

文章にいのちが吹き込まれるのです。

 やめた時点で作品から生気が消え失せ、

文章が陳腐化して、

まったく新鮮味のない文章となりますからね。」








 考えて見るとこのお店は、

男性は勿論女性も、幼い子供から老人まで、

実に多種多様なお客が出入りしており、

しかも皆さん、

お話し好きの人が多い様です。



このお店のおじさんは

その多種多様なお客に話し掛けられると、

決して嫌な顔をせず、

真面目に対応している様に思われるのです。








 我輩のテリトリー内には、もう一軒本屋さんが有り、

先日冒険に出かけて見ました。








そのお店にも沢山の本が有りますが、

全く様子が違うのです。

すべての本がピカピカです、

又どの本も整理整頓されています。

しかし店内には、夢家の様な話し声が有りません。

時たま聞こえてくるのは、レジの音と

「ありがとうございました。」だけです。



 我輩には興味の沸くお店では有りませんでした。

むしろ息苦しささえ感じました。

 同じ本屋さんなのにどうして違うのか、不思議でした。








 我輩はおじさんの会話を聞くのが楽しくて、

夢家の店先に有る均一台(特売の台)の下に潜り込み、

話しを聞き逃さない様一日中入り浸りとなりました。



夢家のおじさんは

わたしが均一台の下で耳を立てているのは解っていましたが、

追い出そうとはせず、容認してくれている様でした。


          

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